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TACTニュース
No.683

担保物があるときの貸倒損失

2017.04.03 法人税

【問】

A社は、取引先のB社に対し1千万円の貸付金を有しており、B社所有の土地に抵当権を設定しています。この度B社が倒産し、貸付金の回収可能性を検討したところ、B社には抵当権の対象となっている土地以外には資産が見当たらない上、A社の抵当権順位は第3順位となっており、B社所有の土地が処分されたとしてもその資産(担保)価値が低く、A社に対する配当の見込みが全くないことが判明しました。B社所有の土地の処分によってA社に配当される金額がない場合、すでに倒産したB社の資産状況、支払能力等からみて、A社が貸付金の全額を回収できないことは明らかです。
そこで、A社は、B社所有の土地(担保物)の処分を待たずに、当期にこの貸付金について貸倒れとして損金経理しようと考えていますが、税務上もこの処理は認められますか。

【回答】

問の貸付金は、以下の理由により、損金経理により貸倒損失として損金の額に算入されます。

1法人の有する金銭債権については、会計上、貸倒れ処理(評価損の計上)をしたとしても、法人税法上は、一般に評価損の損金算入が禁止されています(法人税法33条1項2項、同法施行令68条)。その一方で、法人税基本通達9-6-2は、その債務者の資産状況、支払能力等からみてその全額が回収できないことが明らかになった場合には、その明らかになった事業年度において貸倒れとして損金経理をすることができる(その趣旨は、その場合はその損金算入を認めるということです。) としています。
ただ、同通達は、その後半で「当該金銭債権について担保物があるときは、その担保物を処分した後でなければ貸倒れとして損金経理をすることはできないものとする。」としています。それは、その金銭債権について担保物があるときは、その担保物の処分後の状況によって回収不能かどうかを判断すべきなので、その担保物を処分し、その処分によって受け入れた金額をその金銭債権から控除した残額について、上記「その全額が回収できない」かどうかを判定するべきと考えられるからです。

2したがって、担保物が一番抵当ではなく劣後する抵当権であっても、原則としてその担保物を処分した後でなければ貸倒れ処理を行うことはできません。

3ただし、担保物の適正な評価額と先順位者の債権額からみて、その劣後抵当権が名目的なものであり、実質的には全く担保されていないことが明らかである場合には、担保物はないものと取り扱って差し支えないとの考え方が、国税庁が公表する質疑応答事例の中で明らかにされています。
お尋ねの場合、A社の貸付金について上記「実質的に全く担保されていないこと」が判明し、B社の資産状況、支払能力等からみてその全額が回収不能と判断されるとのことですから、その考え方により、担保物を処分する前であっても貸倒れとして処理することができます。

4なお、お尋ねの場合の前提条件と異なりますが、担保物の処分によって回収可能な金額がないとは言えない(一部回収が見込まれる)場合には、その担保物を処分した後でなければ貸倒れ処理することはできません(同通達9-6-2後半)。ただ、担保物を処分していない場合(時点)の税務上の処理方法としては、個別評価金銭債権に係る貸倒引当金制度があります(法人税法施行令96条1項)ので、その適用を図ることを検討すべきでしょう。
また、担保物の処分による回収可能額がないとは言えないケースであっても、回収可能性のある金額が少額に過ぎず、その担保物の処分に多額の費用が掛かることが見込まれ、既に債務者の債務超過の状態が相当期間継続している場合に、債務者に対して書面により債務免除を行ったときには、その債務免除を行った事業年度において貸倒れとして損金の額に算入される、という取扱いもあります (同通達9-6-1(4))。

(参考)会計上、金銭債権の帳簿価額を減額するではなく、債務免除を行い、金銭債権の全額を私法上消滅させた場合でも、その債権が回収不能とはいえない状況であるにもかかわらず債務免除を行ったなど、実質的に贈与と認められるときは、その債務免除は寄附金(法人税法37条)として取り扱われ、その損金算入は損金算入限度額の範囲に限られます。その債務免除を(寄附金ではなく、)法人税法22条3項の「当該事業年度の損失の額」としてその事業年度の損金の額に算入するためには、その金銭債権の全額が回収不能であることが客観的な状況に基づいて明らかにされなければなりません。(担当:亀山 孝之) 

[ 亀山 孝之 ]

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